痒みが強くてつらいとき、薬を使うべきか迷ったら――当院が「使わないことを勧める」理由
当院の考えとしては、痒みが強いときでも、薬は使わないことをおすすめしています。
なぜなら、痒みというアトピー性皮膚炎の一症状を抑えることが、病気そのものの治癒には結びつかないからです。
私自身、臨床の現場に立って20年以上、患者さんのつらさと向き合う中で、
「ステロイドを使いながら鍼灸で良くすることはできないか」と、何度も試行錯誤してきました。
しかし、軽症から重症まで、さまざまなアトピー性皮膚炎の患者さんを診てきた結果、
ステロイドで症状を抑えながら、鍼灸で体質を改善する――という両立は難しいというのが、私の正直な結論です。
なぜなら、ステロイドは症状を抑える方向へ、鍼灸は体の内側から根本的に変えていく方向へ、それぞれ逆のベクトルを持っているからです。
なぜ、痒みを抑えることが治癒につながらないのか。
それを理解するには、アトピー性皮膚炎という病気がどのように成り立ち、
ステロイドがどのように作用しているのかを見直す必要があります。
ここで、Q1でもご紹介した有名な壁画修復の比喩をもう一度見てみましょう。

【左】:元々の美しい壁画(=本来の健康な状態)
【中央】:時間とともに劣化が進んだ状態(=本来のアトピー性皮膚炎の状態)
【右】:劣化を“修復”しようとして、全く別の姿に変わってしまった状態(=見た目だけを整えようとした治療の結果)
この比喩に重ねるなら、痒みが出ているのは【中央】の状態です。
この状態を、ステロイドなどで【右】のように見た目だけ整えようとすれば、
本来進むべき【左】の回復方向からはかえって遠ざかってしまいます。
そして、右から左に向かうには、必ず中央を通る必要があります。
誤って塗られた塗料を一度落とし、本来の姿に戻してから、初めて丁寧に修復ができるのと同じです。
つまり、痒みは「抑えるべきもの」ではなく、回復のプロセスの一部として現れている反応かもしれないのです。
もちろん、痒みがつらくて眠れない、生活に支障が出るという状況において、
薬を使いたくなる気持ちはとてもよく分かります。
痒みがつらいとき、正直なところ「我慢するしかない」場面もあります。
ただその我慢には意味があります。それは、症状を抑えるのではなく、体が本来の力を取り戻していくために必要な過程だからです。
「今の痒みが、どのような過程の中にあるのか」
「薬を使わずに落ち着いていく方法はないか」
――そんな視点で一緒に治療を進めていきましょう。